2024年04月11日

能力不足などを根拠に試用期間中にクビにできる?人事担当が知っておきたい「認められる解雇事由」とは

人事担当

「試用期間」とは、新規採用者の適正や能力、勤怠状況などを見て、仲間として一緒にやっていけるかどうかを判断するお試し期間です。もし試用期間中に本人が居眠りをしているのを見つけたり、周囲が能力不足だと感じたりした場合には、クビにできるのでしょうか。

人事担当者は、試用期間中の新規採用者への対応について、万が一の際に慌てないように、基本となる考え方を把握しておく必要があります。

今回は、試用期間中に一般的に締結する労働契約の内容や本採用との違い、試用期間中にクビにできる5つのケース、クビを通告する際に注意すべき6つのポイントについて解説していきます。

試用期間の定義

「試用期間」とは、本採用とするかどうかを見極めるお試しの期間のことを指します。面接や筆記試験といった短期間で行われるものだけで判断することが難しい職種などにおいて、一般的に1ヶ月~3ヶ月間ほど、長い場合は6ヶ月間を試用期間として設定し、労使双方が判断する形です。

試用期間中の労働契約とは

試用期間中における労働契約については「解約権留保付労働契約」となっていることがほとんどです。また、厚生労働省によると、通常の試用期間中においては、このような労働契約がすでに成立していると判断されます。こちらは、試用期間中に適性がないといった正当な理由があった場合には、解約権の行使が可能(クビにできる)という内容になっています。

試用期間と本採用では何が異なるのか?

試用期間中の給与など諸条件や待遇については、本採用時と同様の場合もあれば、試用期間中は少し低めに設定するケースもあります。

ただし、社会保険への加入については本採用時と同様の扱いです。加入条件を満たす場合には、会社側は加入させる義務があります。

【結論】試用期間中のクビ通告は本採用後よりはしやすい(きちんとした理由があることが条件)

試用期間のブロック

以上のことを踏まえると、結論としては「試用期間中や試用期間後にクビ通告は可能」ということになります。ただし、社会通念上きちんとした理由があることが条件です。

試用期間の終了後に本採用としない対応のことを「本採用の拒否」といいます。こちらも、前述の解約権留保付労働契約による行使が会社側に認められている権利です。この場合、能力不足などを理由として、通常の解雇よりも広い範囲で解雇が認められるとされています。

つまり、適性がない、勤怠不良などの理由でクビを通告する場合には、本採用にした後よりも、試用期間中や試用期間の終了時点でのほうがクビの通告はしやすいのです。

それでは、試用期間中や試用期間終了後をタイミングとして、クビの通告が認められるケースにはどんなものがあるのでしょうか。

試用期間中にクビにすることが認められるケースとは

試用期間と書かれた用紙の上のフィギュア

次のような正当な理由があり、それが社会通念上で相当と判断できる、または客観的に見て合理性があるものである場合には、試用期間中や試用期間終了をもって、クビを通告することが認められます。

試用期間中のクビ通告が認められるケース①能力が充分ではない(能力不足)

基本的には、試用期間中に能力不足というのみの理由で、クビにすることはできません。書類選考や面接の時点で、会社側も採用者の能力について把握している部分もあること、それを踏まえて会社が内定を出していることなどの理由があるためです。

ただし、教育期間をしっかり設け、指導係をつけたにもかかわらず、能力不足や成績不良などが顕著な場合には、正当な解雇事由とみなされる可能性があります。

試用期間中のクビ通告が認められるケース②健康不良により就業が難しい

3ヶ月~6ヶ月間などの試用期間中に健康を害し、治療のためどうしても早期の復帰が難しい場合などは、解雇通告が認められます。

ただし、労災保険に加入していて業務上災害のための療養中の場合には、その期間中とその後30日間はクビにできないことになっていますので、解雇のタイミングには注意しましょう(労働基準法第19条)。
参考:厚生労働省「労働基準法」

試用期間中のクビ通告が認められるケース③勤怠不良

度重なる遅刻や欠席、無断欠席といったことが発生し、会社側による適切な指導を行っても改善されない場合は、解雇の正当な理由として認められることがほとんどです。

試用期間中のクビ通告が認められるケース④協調性に乏しい

会社という集合体の中では、周囲の仲間や上司と協力して業務を行っていかなければならない場面が多いです。そこで協調性に欠けていたり、上司の指示に従わなかったり、周囲とトラブルを起こしたりする場合には、勤務態度が不良であると判断されます。

そこで会社側から適切な指導を行うことになりますが、それでも改善されない場合には、解雇の正当な理由として認められる場合があります。

試用期間中のクビ通告が認められるケース⑤経歴詐称

試用期間中に学歴や職歴、犯罪歴などに重大な詐称があった場合には、解雇の正当性が認められる可能性が高いです。小さな経歴詐称の場合にはクビ通告が無効と判断される可能性もありますが、業務上必要な資格を所有していないなど、業務に差しさわりがある場合には解雇に相当すると判断される可能性があります。

試用期間中にクビを通告する際に注意すべきこと

チェックリスト

試用期間中や試用期間終了後に解雇通告をすることになった際に、次のようなポイントを押さえておかないと「不当解雇」という内容で、従業員から会社側が訴訟を起こされる可能性もあります。訴えられることがないよう、また裁判で不当解雇と判決を下されることがないよう、次の6点に注意してください。

【試用期間中のクビ通告時に注意したい6つのポイント】

  1.  就業規則に本採用拒否について明示があるか確認しておく
  2.  試用期間は適切な長さに設定する
  3.  クビ(解雇)の理由を明確に説明できるようにしておく
  4.  未経験者・新卒者は能力不足を理由に解雇してはならない
  5.  結果だけではなく過程もきちんと見て判断する
  6.  試用開始より14日以上経過してからの解雇では「予告」が必要

 

とくに④については、その業務経験がないこと、社会経験がないことを会社側も承知の上で採用していますので、不当解雇として判断される可能性が高いです。会社側には育成責任があることを理解しておきましょう。

また⑥については、労働基準法第20条、21条にて定められているルールです。解雇予告は30日以上前に行うのが原則となっています。ただし、それが難しい場合には30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことになりますので注意しましょう。
参考:「労働基準法」第二十条、二十一条

まとめ

試用期間は、本採用とするかどうかを見極めるお試しの期間です。その試用期間中には解約権留保付労働契約を締結しているとみなされるため、目に余る勤怠不良や重大な経歴詐称などが判明した場合には、クビを通告が認められる可能性があります。ただし、ご紹介したような注意点を押さえて、会社側も育成責任をはたしながら、長い目で見て判断することが大切です。

試用期間の運用のしかたが適切であるかどうか判断が難しい、客観的に見たときに自社の試用期間中の対応は社会通念にのっとっているのかなど、疑問がある方は、株式会社Office Followへご相談ください。パーソナル雇用制度の導入や運用支援など、幅広く対応可能です。