2024年04月03日

年俸制でも残業代は発生する?必要なケース・不要なケースや計算方法を解説

考える経営者

従業員の給与を1年単位で決定する「年俸制」を導入している企業も多いです。年間の給与額について従業員と合意したうえで用いる制度のため、年俸制では残業代が発生しないのではないかと考える方も多くいます。

しかし、状況によっては、残業代や割増賃金が発生する可能性があるため要注意です。この記事では、年俸制の従業員に対して残業代の支払いが必要なケース・不要なケースを解説し、残業代の計算方法もあわせてご紹介します。

年俸制でも原則として残業代の支払い義務がある

給与明細の残業

そもそも年俸制とは、従業員と合意した金額で1年間の給与総額を決定する制度です。労働基準法では、給与を毎月1回・一定の期間を定めて支払うことが義務付けられているため、基本的には取り決めた年俸を、12分割して1ヶ月ごとに支払います。

また、賞与を支払う場合は、この賞与分も年俸に上乗せすることが一般的です。仮に4ヶ月分の賞与を付与する場合、通常の計算と同じように12分割をするか、それとも16分割をして支払うかについては、会社の規定により自由に決められます。

所定労働時間を超過すると残業代が発生する

先述したとおり、年俸制の場合は1年間の給与を取り決めており、金額について従業員とも合意しています。そのため「残業代も年俸に含まれる」と考える人も多いのですが、結論としては誤りです。年俸制だといても、所定労働時間を超過した分に関しては、残業代の支払い義務が生じます。

時間外労働分に関する割増賃金は25%です。計算方法は後の項目で解説しますが、所定労働時間以降の労働に関しては、25%の残業代を別途付与しなければなりません。

深夜労働や法定休日労働の場合は割増賃金が発生する

年俸制で働く従業員は、その他の給与形態で働く人と同じように、深夜労働や法定休日労働分の割増賃金も請求できます。割増率は次のとおりです。

【割増率の一覧表】

時間外労働(残業代) 25%
深夜労働(22時~翌5時の労働) 25%
法定休日労働 35%

深夜労働の割増率25%は、その他の手当てに追加して請求できます。たとえば時間外労働を22時~5時にかけて行った場合、この間の割増賃金は合計で50%です。

年俸制で残業代の支払いが不要となる例外的な4つのケース

CASEのブロック

年俸制の従業員に対しても、先述した条件に該当する場合は残業代を支払わなければなりません。しかし、以下の例外的な4つのケースに限っては、残業代の支払いは不要です。

 

<年俸制で残業代の支払いが不要となる例外的な4つのケース>

  1. みなし残業制の場合
  2. 裁量労働制かつ決定した法定労働時間を超過した場合
  3. 管理監督者の場合
  4. 業務委託契約を結ぶ個人事業主の場合

 

それぞれを詳しく解説します。

①みなし残業制の場合

みなし残業制とは、一定時間分の残業代を含めた賃金を支払う制度のことで、固定残業制とも呼ばれています。特定の期間内における従業員の残業時間が、あらかじめ設定したみなし残業時間に収まっている場合は、新しく残業代が発生することはありません。

ただし、みなし残業時間を超過した残業を行った場合は、その分に対して残業代が発生します。

②裁量労働制かつ決定した法定労働時間を超過した場合

裁量労働制とは、あらかじめ決定した労働時間に基づいた給料を支払う制度です。たとえば1日あたりの労働時間を10時間として定めている場合、法定労働時間の8時間を2時間オーバーしますが、この分について残業代は発生しません。

しかし、あらかじめ決定した法定労働時間を超過した残業を行った場合は、その分に対して残業代が発生します。

③管理監督者の場合

労働基準法において「監督もしくは管理の地位にある者」に該当する従業員は、年俸制かどうかは無関係に残業代を受け取ることができません。ただし、いわゆる「名ばかり管理職」の人にはこの原則が適用されず、一般の従業員と同じように残業代を受け取れます。

また、実態として管理監督者の立場にある人物だとしても、深夜労働に関する割増賃金は受け取る権利があります。

④業務委託契約を結ぶ個人事業主の場合

会社と年俸制で業務委託契約を結ぶ個人事業主も、残業代を受け取ることができません。個人事業主には労働基準法が適用されず、給与ではなく成果に応じて賃金が支払われるため、そもそも残業という概念がないのです。

個人事業主の場合、特別な契約を交わしてない限り、深夜労働や法定休日労働に関しても割増賃金を受け取れません。

年俸制で残業代を支払う場合の計算方法

電卓 計算する人

年俸制で働く従業員に対しても、例外を除き残業代の支払いが必要です。残業代の計算方法を3つのステップにわけて見ていきましょう。

 

<年俸制の残業代の計算方法>

  1. 1時間あたりの基礎賃金を計算する
  2.  残業時間数を集計する
  3.  割増率をかけて残業代を割り出す

 

注意点も含めて詳しくご紹介します。

①1時間あたりの基礎賃金を計算する

残業代を計算するためのベースとして、まず1時間あたりの基礎賃金を計算してください。年俸制を採用している場合の計算式は、次のとおりです。

 

<基礎賃金の計算式>

  • 1年間の基礎賃金÷1年間の所定労働時間

 

仮に1週間あたり40時間×52週間として計算した場合、1年間の所定労働時間は2,080時間です。これを年俸400万円で割った場合、1時間あたりの基礎賃金は1,923円となります。

②残業時間数を集計する

次のステップでは、当該従業員の残業時間数を集計します。根拠となるのはタイムカードや出退勤記録なので、従業員の勤怠管理は正確に行いましょう。

③割増率をかけて残業代を割り出す

1時間あたりの基礎賃金と残業時間数がわかったら、これに割増率をかけて残業代を割り出してください。先ほどの例と同様に、1時間あたりの基礎賃金が1,923円と仮定しましょう。この場合、残業時間が10時間で、25%の割増賃金を加えると、残業代は以下のようになります。

 

<シミュレーション結果>

  • 1,923円×10時間×25%=4,808円

 

【注意】年俸に賞与が含まれる場合はこれを除外して計算する

年俸制の基礎賃金を計算する際、賞与を基礎賃金に算入してはいけません。基礎賃金に賞与を含めている場合は、賞与を除外した金額から基礎賃金を除外するのが正しい計算方法です。

仮に年俸が500万円で、これに賞与60万円が含まれる場合、基礎賃金として計算できるのは440万円です。440万円を1年間の所定労働時間で割った金額が、1時間あたりの基礎賃金となります。

まとめ

年俸制の場合は1年間の給与に賞与などの手当てが含まれていますが、残業代は別途計算して支払う必要があります。個人事業主など一部の例外を除き、残業代や深夜労働・法定休日労働に関する割増賃金も発生するため注意しましょう。

株式会社Office Followでは、複雑な残業代の計算を伴う、年俸制従業員の給与計算代行業務などを行っています。残業時間を正確に把握できる退勤管理システムの貸与も行っているため、まずは当事務所にお悩みや現状の課題をお聞かせください。