裁量労働制でも残業代は発生する?制度の特徴やみなし残業制との違いを解説
労働時間について会社側が強く制限せず、従業員の裁量に任せるシステムが「裁量労働制」です。裁量労働制は残業代の支払いの対象外になると考える人もいますが、実際には一定の条件を満たす場合のみ、残業代が支払われます。
この記事では、裁量労働制の従業員が残業代を受け取るための条件や、残業代の計算方法、裁量労働制のメリット・デメリットも含めて、わかりやすくご紹介します。
裁量労働制の従業員も残業代を受け取れる
裁量労働制で働く従業員は、あらかじめ定められた「みなしし労働時間」をもとに給与計算を行います。そのため残業代は発生しないと思われがちですが、実際には以下の条件に合致する場合に限り、残業代を受け取ることが可能です。
<裁量労働制で残業代を受け取れるパターン>
- みなし労働時間が8時間を超過する場合
- 休日や深夜に労働している場合
それぞれのパターンを詳しくご紹介します。
みなし労働時間が8時間を超過する場合
みなし労働時間が8時間以上に設定されている場合は、超過分が所定時間外労働に該当します。そのため、超過分に限っては裁量労働制だとしても残業代が発生するのです。仮にみなし労働時間が9時間の場合は1時間分、10時間の場合は2時間分の残業代が発生します。
休日や深夜に労働している場合
裁量労働制で働いている従業員も、休日や深夜に労働した分に関しては別途手当を受け取れます。22時から翌5時までの労働は「深夜労働」、労働基準法により定められた法定休日に出勤した場合は「法定休日労働」に該当し、割増賃金の受け取りが可能です。
裁量労働制の残業代の計算方法
裁量労働制の残業代は、計算方法がやや複雑です。残業代が発生するパターンは以下の3つですが、それぞれ割増率などの条件が異なるため、正確な残業代を計算するために詳しく確認しておきましょう。
<裁量労働制の残業代の計算方法>
- 通常残業の場合
- 深夜労働の場合
- 休日労働の場合
上記3パターンについて、具体的な計算例も交えながら解説します。
通常残業の場合
みなし労働時間が8時間を超過する分については「通常残業代」として計上できます。この場合の計算方法は次のとおりです。
<通常残業の計算方法>
- 1時間あたりの賃金×残業時間×割増率25%
仮に時給換算で2,000円の報酬を得ている人の場合、1ヶ月の残業時間が20時間と仮定すると、以下の残業代が支給されます。
<シミュレーション結果>
- 2,000円×20時間×25%=10,000円
深夜労働の場合
22時から翌5時にかけての勤務は、深夜労働に該当します。この分には25%の割増賃金が発生し、残業と並行する場合は、残業代に上乗せすることも可能です。
<深夜労働の計算方法>
- 1時間あたりの賃金×残業時間×25%
仮に時給換算2,000円で1ヶ月に20時間の深夜労働を行い、なおかつそのすべてが通常残業に該当する場合のシミュレーション結果は、次のとおりです。
<シミュレーション結果>
- 2,000円×20時間×50%(通常残業25%+深夜労働25%)=20,000円
休日労働の場合
法定休日に出勤した場合は35%の割増賃金が付与されます。休日労働に深夜労働が含まれる場合の割増賃金は、合計で60%です。
<休日労働の計算方法>
- 1時間あたりの賃金×残業時間×35%
時給2,000円の従業員が、深夜以外の時間帯に20時間の休日労働を行った場合のシミュレーション結果は、次のとおりです。
<シミュレーション結果>
- 2,000円×20時間×35%=14,000円
そもそも裁量労働制とは
そもそも裁量労働制は、以下のいずれかに該当する業務形態であり、すべての職種で導入できるものではありません。
<裁量労働制の種類>
- 専門業務型
- 企画業務型
この項目では、上記2種類の違いと特徴や、裁量労働制とフレックスタイム制の違いについて解説します。
裁量労働制は「専門業務型」と「企画業務型」の2種類
裁量労働制は「専門業務型」と「企画業務型」にわかれています。
【種類ごとの特徴】
専門業務型 | ・新技術の研究開発や弁護士業務など全19業種が対象 ・導入時に労使協定や健康管理などの手続きが必要 |
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企画業務型 | ・事業運営の企画や立案に関連する業務が対象 ・導入にあたり労使委員会の設置や適用社員の同意などが必要 |
それぞれ適用できる業種や、導入に向けて必要な手続きの内容が異なるため注意しましょう。
裁量労働制とフレックスタイム制の違い
裁量労働制はフレックスタイム制と混同されがちですが、以下のように明確な違いがあります。
【労働形態の違い】
裁量労働制 | ・実際の労働時間は度外視して「みなし時間」を採用する ・みなし労働時間が8時間を超過すると残業代が発生する |
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フレックスタイム制 | ・定められた労働時間内から出退勤の時間を自由に決められる ・清算期間内の総労働時間を超過すると残業代が発生する |
残業代に関する取り決めも、制度によって大きく異なるのです。
裁量労働制のメリット・デメリット
裁量労働制の導入を検討している方に向けて、裁量労働制のメリット・デメリットを2点ずつご紹介します。
【裁量労働制のメリット・デメリット】
メリット | デメリット |
---|---|
・時間に縛られず作業ができる ・成果主義の働き方に適している |
・不規則な生活に陥りやすい ・長時間労働がまん延しやすい |
それぞれのポイントを確認していきましょう。
メリット①時間に縛られず作業ができる
勤務時間に縛られず、労働者がマイペースで働ける点が裁量労働制ならではのメリットです。「早朝から勤務して夕方以降は自由に過ごしたい」「日中よりも夜間のほうがアイデアを出しやすい」といった特徴をもつ人が、より力を発揮しやすくなります。
メリット②成果主義の働き方に適している
裁量労働制に適しているのは、成果主義をベースとする働き方です。グループワークにより業務を進める必要がなく、個人の成果に基づいて仕事ができる業種の場合は、個々がより業務に集中しやすくなり、成果を生みやすくなるでしょう。
デメリット①不規則な生活に陥りやすい
裁量労働制の採用により、従業員の生活が不規則になりがちな点はデメリットです。最悪の場合は体調を崩す可能性も考えられるため、会社としては従業員の健康管理にも、よりいっそう気を配らなければなりません。
デメリット②長時間労働がまん延しやすい
仕事のペースを従業員が自由に設定しやすい裁量労働制は、長時間労働や休日出勤がまん延しがちです。必ずしも効率的に業務が進むとは限らず、残業代や各種手当がかさみ、想定以上の人件費を計上することにもなりかねません。
まとめ
裁量労働制で働く人も、一定の条件を満たす場合は残業代を受け取れます。この場合、残業代の計算方法はやや複雑になるため、経理担当者は正確な給与を計算できるように、残業代の基本を把握しておかなければなりません。
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