2024年03月15日

変形労働時間制とは?4つの種類の違い、導入するメリット・デメリット、導入する際の流れをわかりやすく解説します

時計とパソコン

業務の性質上、たとえば繁忙期と閑散期がはっきりしているような場合には、「変形労働時間制」を採用することで、企業・従業員の双方にメリットが生まれる可能性があります。ただし、変形労働時間制を導入する際には、労働基準法の下、従業員の健康と福祉の確保に注意しながら行わなければなりません。

今回は、変形労働時間制の導入を検討している事業者を対象に、変形労働時間の概要や主な4つの種類、導入するメリット・デメリット、導入する際の注意点などを解説していきます。

変形労働時間制とは?

時計とハテナ

変形労働時間制とは、需要の高い繁忙期の所定労働時間(※)を長くして、その分を需要が低くなる閑散期の所定労働時間を短くすることで補うという労働スタイルになります。

たとえば引越し業者の場合、主な繁忙期は3~4月、9月頃で、閑散期は11月頃というケースが多いです。変形労働時間制を導入することで、このような業務上の特性に応じて企業側と従業員が労働時間をうまく配分でき、全体的な労働時間の短縮を図れるようになるのです。

※ 所定労働時間…企業が就業規則で定めた労働時間のこと。労働基準法で定められた「法定労働時間」とは別。

変形労働時間制の主な4種類の特徴とは

企業が変形労働時間制を導入する場合、次の4つの種類から自社の特性に合っているものを選ぶことになります。

【労働時間制度の選び方(例)】

図1

引用:厚生労働省

【変形労働時間制の主な4種類の特徴】

 
  1ヶ月単位の変形労働時間制 1年単位の変形労働時間制 1週間単位の非定型的変形労働時間制 フレックスタイム制
変形労働時間制についての労使協定の締結
労使協定の監督署への届け出  
特定の事業・規模のみ    
(労働者数30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店
 
労働時間・時刻など 休日・連続労働日数 週1日または4週4日の休日 週1日・連続労働6日まで 週1日または4週4日の休日 週1日または4週4日の休日
1日の労働時間の上限   10時間 10時間  
1週の労働時間の上限   52時間    
1週平均の労働時間   40時間 40時間 40時間
(特例44時間)
就業規則で時間・日を明記    
就業規則変更届の提出
(10人以上)

(10人未満の事業場でも準ずる規定が必要)

参考:厚生労働省

では、ひとつずつわかりやすく解説していきます。

①1ヶ月単位の変形労働時間制

1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月以内の期間で、平均で1週間あたりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場※は44時間)以内となるように、労働日や労働時間を設定できる制度です。

この範囲であれば、特定日の労働時間が8時間超となったり、特定の週の労働時間が40時間超(特例措置対象事業場は44時間)となったりすることも可能です。ただし事業者は、時間や日について定めた情報を、就業規則などにあらかじめ明記しておく必要があります。

※ 特例措置対象事業場…常時労働者数10人未満の商業・映画・演劇業・保健衛生業・娯楽接客業

②1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制は、1ヶ月超1年以内の期間で、平均で1週間あたりの労働時間が40時間を超えないことを条件に、労働日や労働時間を配分できる制度です。1年の間に繁忙期と閑散期が大きくわかれる業種が多く採用している制度でもあります。

注意したいのは、1日あたりの労働時間は10時間以内、連続勤務日数は6日まで、などのルールがあることです。また、企業側と従業員の間で労使協定を結び、労働基準監督署に届け出を行う必要もあります。

③1週間単位の非定型的変形労働時間制

1週間単位の非定型的変形労働時間制は、規模30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店に限り、労使協定の上で1週間単位をもって労働時間を定めることができる制度です。

1週間における労働時間が40時間以下、1日あたり上限10時間となるように規定し、もし超過した場合には割増賃金の支払いも定めておく必要があります。またこちらの制度でも、企業側と従業員の間で結んだ労使協定について、労働基準監督署に届け出を行わなければなりません。

④フレックスタイム制

フレックスタイム制は、一定期間において、その総労働時間の範囲内で、従業員が日々の始業・終業時刻や労働時間を自分で決めることのできる制度です。

3ヶ月以内の一定期間が「精算期間」とされ、その期間中における1週間あたりの労働時間の平均が40時間以内となるように設定します。また、就業規則でコアタイム(必ず労働すべき時間)を設けることも可能です。

変形労働時間制のメリット・デメリットとは

メリットデメリット色鉛筆

厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査概況」によると、変形労働時間制を採用している企業の割合は59.3%にものぼります。細かく見てみると、1ヶ月単位の変形労働時間制を導入している企業は22.0%、1年単位では18.7%、フレックスタイム制では10.6%となっています。

このように多くの企業が採用している変形労働時間制について、導入するメリットとデメリットを改めてみていきましょう。

変形労働時間制を導入するメリット

変形労働時間制を導入した場合、次のようなメリットが期待できます。

 

<変形労働時間制を導入した場合のメリット>

  •  繁忙期と閑散期を見越して時間を無駄なく使える(業務の効率化)
  •  総労働時間の減少につながるため、企業は残業代を抑えることができ、従業員は心身のリフレッシュになる

 

変形労働時間制を導入した場合、繁忙期には忙しく働き、その分の休暇などを閑散期にあてることが可能になります。業務の効率化にもつながりますし、従業員が気兼ねなくまとめて休暇を取得できるようにもなるでしょう。

企業側としては、固定労働時間制の時に発生していた残業代を、抑えることができる可能性もあります。この辺りは、変形労働時間制を導入する前にしっかりと計画を立て、労使で話し合い周知することが大切です。

変形労働時間制を導入した場合のデメリット

その一方で、変形労働時間制を導入した場合には、次のようなデメリットも予想されます。

 

<変形労働時間制を導入した場合のデメリット>

  •  繁忙期にはどうしても長時間労働になってしまう
  •  繁忙期と閑散期では労働時間の平均が変わるため、残業代の有無も変わることになる

 

変形労働時間制では、1ヶ月、1年などの大きな単位で1日の労働時間を平均化することになります。そのため、繁忙期にはどうしても長時間労働となる傾向にあります。この場合、従業員の心身の健康と福祉の獲得にも十分注意する必要があるでしょう。

また、繁忙期には10時間労働、閑散期には6時間労働など、労働時間を平均化して法定労働時間内に収める形となりますので、時期によって残業代が出たり出なかったりする現象が発生します。このような状況が従業員の不満へとつながらないように、事前にしっかりと労使協定を締結する必要があります。

変形労働時間制を導入する際の流れ

スタートからゴール

変形労働時間制の導入で発生するメリット・デメリットを把握した上で、導入を決めた場合には、次の流れで進めていくことになります。

1.自社の従業員の勤務状況を調査する

まずは自社の従業員の勤務状況や実績を調査することからはじめましょう。調査は、繁忙期・閑散期をしっかりと把握し、変形労働時間制における対象期間・所定労働時間の配分を正しく設定するために行います。

2.対象者、労働時間等を話し合い決定する

就業規則を見直したり、労使協定を締結したりなどの過程が必要になります。これらに明記する内容を、自社内の調査結果を用い話し合いの下、決定していきましょう。内容としては、変則労働時間制の対象者、対象期間、特定の期間、それぞれの労働時間などです。

3.就業規則を見直す

変形労働時間制を導入する場合、始業・就業時間や休日の変更などがともなうため、従業員の生活リズムにも大きな影響を与えることになります。そのため、就業規則を必要十分に整備する必要も出てきます。

4.労使協定を締結、労働基準監督書へ届け出る

変形労働時間制を導入する際は、企業側・従業員の代表者(労働組合等)との間で労使協定を締結するのが原則です(1ヶ月単位の場合は就業規則に記載のみでも可)。内容をお互いにしっかりと確認し、労使協定を結んだら、労働基準監督署へ届け出をしましょう。

残業労働や休日出勤が予想される場合は、36協定も一緒に提出してください。

5.従業員へ周知し、運用開始

会社内の見える箇所に、新しい就業規則・労使協定の内容を掲示するなどして、従業員へしっかりと周知します。労使双方が納得してこそ、新しい制度の運用が可能になり、うまく進めていくことができるのです。

まとめ

変形労働時間制は、基本的には「繁忙期と閑散期がはっきりしている業種」に向いている制度だといえます。ご紹介したように4つの種類がありますので、自社調査をしてどのスタイルが合うのか見極めるのが重要なポイントです。また、導入する際はメリットやデメリットについてもしっかりと把握し、「こんなはずではなかった」とならないように、慎重に進めていきましょう。

変形労働時間制の導入を検討されている、運用中で悩んでいるという方は、株式会社Office Followまでご相談ください。労使相談についてのプロとして、就業規則の見直しや労使協定の作成など幅広くお手伝いします。