責に帰すべき事由とはどういう意味?例文で民法をわかりやすく解説!
責に帰すべき事由とは、契約解除や損害賠償請求を行う際に重視されるものです。ただし、この言葉は民法で使用される文言なので、聞き慣れない方が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、責に帰すべき事由の読み方や意味といった基本的な説明から、民法で定められている概念について、例文を使いながらわかりやすく解説していきます。
責に帰すべき事由の読み方と意味
責に帰すべき事由は、「責(せめ)に帰(き)すべき事由(じゆう)」と読み、「帰責事由」と略して表記されることもあります。
責に帰すべき事由という文言は、民法で登場する言葉で、簡単にいうと「責められる理由や落ち度」という意味です。民法に従って争いが起きた場合、責に帰すべき事由があるとされた人物に対し、損害賠償を請求したり、契約解除を申し出たりできます。
もう少しわかりやすく説明するために、債権者のAさんと、債務者のBさんを例にしましょう。以下の場合、Bさんには責に帰すべき事由があるため、原則AさんはBさんに対し、損害賠償請求や契約解除を申し出ることが可能です。
- Aさんが貸したお金を返済日までにBさんが返済しない
- Aさんが貸したお金をBさんが一部しか返済していない
- Aさんが依頼した仕事をBさんが期日までに行わなかった
- BさんがAさんに売ったパソコンをBさんの不注意による失火で焼失させてしまった
民法によって責に帰すべき事由の概念は決められている
先ほど、債務者に対して責に帰すべき事由があった場合、債権者は債務者へ損害賠償請求や解約解除を申し出ることが可能と説明しました。しかし、責に帰すべき事由の概念があいまいだと裁判が進まないので、この概念は民法によって決められています。
ただし、民法は改正が行われたため、従来の民法と現在制定されている民法では、概念が変わっている点に注意が必要です。ここでは、損害賠償請求を求める場合と契約解除を求める場合の2つにわけて、責に帰すべき事由の概念を解説していきましょう。
損害賠償請求
旧民法では、損害賠償請求に対し、以下の条文が制定されていました。
<債務不履行による損害賠償> 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。 |
旧民法の場合、条文の前半部分だけを読むと、「債務不履行が生じた場合は、債務者に対し損害賠償を請求できる」と解釈できます。
ただし、後半部分には「債務者の責に帰すべき事由で債務不履行が生じた場合は、損害賠償を請求できる」としか書かれていません。そのため、「債務不履行が起きても、債務者に落ち度や責められる理由がない場合、損害賠償を請求できない」という考えは、あくまでも解釈でしかありませんでした。
条文で明確化されていない内容を解釈だけで考えるのはよくないということで、民法第四百十五条は、以下の内容に改正されています。
<債務不履行による損害賠償> 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。 一 債務の履行が不能であるとき。 |
このように改正されたことで、旧民法であくまでも解釈とされていた「債務者に落ち度や責められる理由がない場合、損害賠償を請求できない」といった部分が明確化されました。
また、改正後の第四百十五条では、どのような内容が責に帰すべき事由にあたるのかも3点にわけて明確化されたため、よりわかりやすくなっています。
さらに、改正後の四百十五条には「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という文章が追加された点も大きな改正点です。
旧民法では、戦争や大災害などで本当にどうしようもなくなったとき以外、原則、債務者の責に帰すべき事由がなくなることはありませんでした。しかし、上の文章が追加されたことにより、責に帰すべき事由は契約内容や契約にいたった経緯など、広い側面からも判断されるようになっています。
そのため、現行の民法に当てはめると、債務者側は損害賠償請求に対して柔軟な対応がされるようになったといえます。
契約解除
旧民法では、契約解除について以下のように記載されていました。
<債権者の責めに帰すべき事由による場合> 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。 |
上の文章は、履行不能になった場合、債権者は債務者との契約を解除できるものの、債務者に責められる落ち度や理由がない場合は契約を解除できないといった内容が書かれています。すなわち、「納期までに依頼した仕事があがってこない」「請求日までに代金が振り込まれない」などの事態が生じても、債務者の落ち度を明確にできない場合は契約を解除できないというわけです。
債務者に対し責に帰すべき事由を求める理由は、債務者に対し責任追及を行うことが目的でした。しかし、契約解除は本来、被害を受けた債権者を守るためのものです。
そのため、債務者に対し責に帰すべき事由を求める行為は不要という意見から、現行の民法では以下のように改正されています。
<履行不能による解除権> 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。 |
この法改正により、履行不能によるトラブルが起きた場合、債権者は債務者の落ち度を明確にできなくても、契約解除を申し出ることが可能となりました。
債権者に帰責事由(責に帰すべき事由)がある場合は契約解除できない
民法の改正により以下の文章が追記されたため、債権者側に帰責事由(責に帰すべき事由)がある場合は債務者との契約を解除できません。
<債権者の責めに帰すべき事由による場合> 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。 |
債権者側の責に帰すべき事由には、以下のようなものが当てはまります。
- 資材が集まらなかったために作業ができなかった
- 機械が故障してしまい作業ができなかった
- 親会社の経営内で資金を確保できず長期休業が決まった
また、契約解除にいたらなくても、債権者の責に帰すべき事由で社員を休業させた場合は、休業期間中、平均賃金の60%以上を休業手当として支払わなければなりません。こちらは労働基準法の第二十六条に明記されているので、経営者の方は把握しておきましょう。
まとめ
責に帰すべき事由とは、民法に記載されている文言であり、責められる落ち度や理由といった意味です。取引先や社員に対してなんらかのトラブルが生じた場合、責に帰すべき事由をもとに、契約解除や損害賠償請求の可否が決定します。そのため、経営者の方はもしものときに備え、責に帰すべき事由の概念を把握しておきましょう。
とはいえ、このような問題が生じた場合、普段の作業に加え、おひとりで問題を解決するのは至難の業です。株式会社Office Followでは、経営者様の悩みに寄り添い、丁寧なコンサルとともに労働法務の対応を行っております。初回のご相談は無料で承っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。