2024年03月12日

会社による有給買取は違法?!基本的なルールや計算方法、退職時など例外的なケースについて解説

休暇申請書

企業側は、一定の条件を満たしたすべての従業員へ年次有給休暇を与える必要があります。しかし、厚生労働省調べによると、日本における年次有給休暇の取得率は56.6%(令和2年)と低いのが現状です。せっかく与えられても、業務が忙しいためになかなか消化できない、退職時に消化できていないという従業員の中には「会社に有給買取を依頼したい」と考える人もいるのではないでしょうか。

結論から言えば、会社による有給買取は原則として違法になります。ただし、例外的に認められるケースもあるのです。今回はそんな有給買取について、例外的に認められる3つのケースや、有給買取時の計算方法、注意点などをくわしく解説していきます。

参考:厚生労働省「令和4年版過労死等防止対策白書」

会社による有給買取とは

「有給買取」とは、会社から従業員へ与えた年次有給休暇について、会社側が買い取る行為を指します。従業員が保有する有給休暇の日数に対して、それに見合った賃金を従業員へ支払い、有給休暇を買い取るという形です。

ちなみに、年次有給休暇の付与については、業種や業態、正社員やパートなど雇用形態に関係なく、一定の要件を満たしたすべての従業員に対して、会社は年次有給休暇を与える義務があります(労働基準法第39条)。

  •  年次有給休暇の付与日数
正社員等への付与日数
勤続勤務年数 0.5年 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

 

パート・アルバイト等※への付与日数
  週所定労働日数 1年間の所定労働日数 継続勤務年数
0.5年 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年以上
付与日数 4 169-216 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3 121-168 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2 73-120 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1 48-72 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

※ 週所定労働日数4日以下かつ週所定労働時間30時間未満の労働者
引用:厚生労働省「リーフレットシリーズ労基法39条」

ただし、年次有給休暇には2年の時効があります。そこで、未消化分の有給買取が発生するケースが出てくるのです。

【会社による有給買取】行政的には原則NG

労働基準法のブロック

会社による未消化分の有給買取は、原則としてできないことになっています。労働基準法では「有給休暇を与えなければならない」と定められていますので、代わりに賃金を支払ったとしても心身を休めたことにはならないためです。

しかし、例外的に有給買取が認められるケースもあります。

【会社による有給買取】例外的に認められる3つのケースとは

会社側による有給買取は原則として違法ですが、例外として認められるのは次の3つのケースです。

 

  1.  付与された有休の日数が法定基準を超えている場合
  2.  期限を過ぎた有休
  3.  退職時に消化できなかった有休

 

それぞれわかりやすく説明していきましょう。

有給買取が認められるケース①付与された有休の日数が法定基準を超えている場合

前述のとおり、有給休暇の付与日数は労働基準法で定められています。実はこれは「最低日数」であり、会社側は法定基準以上の有休日数を従業員に与えることも可能です。

この場合には、法定基準を超えている部分の有給買取を会社が行っても問題はないとされています。

有給買取が認められるケース②期限を過ぎた有休

未消化分の有給休暇は、翌年に繰り越されますが、それでも消化できずに労働基準法で定められている2年の使用期限を過ぎてしまう場合もあります。このような失効した有給休暇については、会社側が買い取ったとしても従業員に不利益が発生しないため、例外として違法にはならないとされています。

有給買取が認められるケース③退職時に消化できなかった有休

退職を予定している従業員が、消化しきれなかった有給休暇を会社に買い取ってもらえることも少なくありません。本来の目的である「従業員の健康と福祉の確保」がなされた上で、必要のなくなった有給休暇については、会社が買取を行っても問題はないとされるためです。

有給買取時の計算方法や価格設定方法とは

電卓とカレンダー

会社側が従業員から例外的に有給買取を行う場合は、労働基準法第39条⑨を参考にした「通常の有給休暇と同じ方法で計算する方法」と、「一定額に設定しておく方法」の2通りがあります。自社に合っている方法を選択して計算しましょう。

有給休暇を取得した時の賃金を用いて計算する

この場合に使用できるのは「通常賃金」「平均賃金」「標準報酬月額」のいずれかになります。

参考:厚生労働省「労働基準法」第三十九条⑨

有給買取時の計算方法①通常賃金を用いる

所定労働時間で働いた時に支払われる賃金が「通常賃金」となります。

 

【月給制の場合(例)】

  1.  基本給(月給)÷ 所定労働日数=通常賃金(A)
  2.  A × 有給買取日数=有給買取金額

 

有給買取時の計算方法②平均賃金を用いる

労働基準法で決められている手当や補償などを算出する際に基準となるのが「平均賃金」です。

 

【月給制の場合(例)】

  1.  過去3ヶ月間の合計賃金 ÷ その間の日数合計(暦日数)=平均賃金(B)
  2.  B × 有給買取日数=有給買取金額

 

有給買取時の計算方法③標準報酬月額を用いる

社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険)の料金の算出に使用されるのが「標準報酬月額」です。

 

【月給制の場合(例)】

  1.  標準報酬月額÷ 月の日数(30日など)=日割り標準報酬月額(C)
  2.  C × 有給買取日数=有給買取金額

 

就業規則内で有給買取価格を一定額に設定しておく

会社による有給買取価格の計算は、労働基準法で決まっているわけではありませんので、各会社の就業規則内で一定額として事前に設定しておくことも可能です。たとえば有給休暇1日分で7,000円など決めたら、就業規則に記載することもお忘れなく。

有給買取を行う際に注意したいポイント

ビックリマークのブロック

こちらでは、会社が例外的に有給買取を行う際に、注意したいことを3つご紹介します。

【義務はなし】有給買取は企業側の善意で行うもの

従業員が前述の例外のケースで有給買取を会社側へ希望した場合でも、会社側には実は買い取る義務はありません。あくまでも会社側の善意で行うものとして認識しておきましょう。

有給買取の予約は違法になるので注意

有給休暇の買取を会社側が予約することは、有給休暇の日数の減少や、法規上必要な有給日数の付与ができないといったことにつながります。つまり、労働基準法第39条に違反することになりますので、注意しましょう。

買い取った有休は「賞与」として計上しよう

有給休暇を取得して支払われる賃金は通常の「給与」として扱われますが、有給買取の支払額については、給料ではなく「賞与」として計上してください。

賞与についても健康保険や厚生年金保険の保険料がかかります。そのため、賞与の支給日から5日以内に所轄の年金保険事務所へ「被保険者賞与支払届」を提出する必要があります。

参考:日本年金機構

まとめ

労働基準法に違反することになるため、会社による有給買取は原則としてできないことになっていますが、例外的な3つのケースでは認められています。これら以外のケースでは違法になりますので、見極めには注意が必要です。

有給買取に関して不明点がある場合は、早急に労働法務方面や給与計算に強いプロに相談することをおすすめします。株式会社Office Followでは、最低限のサポートを受けられる「ミニマムパッケージ」にて、給与計算や法定帳簿、助成金などの情報提供をいたします。ぜひ一緒にお悩みを解決し、クリーンな企業の運用を目指しましょう。